数年前、どこもかしこも RAID内蔵の「 LANディスク 」という名前の NAS を製造販売していた時期があります。ところが、しばらく経過すると、どこもかしこも、その RAID内蔵の「 LANディスク」という名前の NAS を製造販売しなくなってしまい、普通の「 LANディスク 」という名前の 外付けHDD を製造販売するようになりました。
理由はよくわかりません。
ただ RAID という機構が、ほんの一瞬だけ誰でも手に届く範囲に下りてきて、再び去って行ったのでした。
RAID とは、カンタンに言えば、ディスクアレイのことでハードディスク(HDD)複数台を1台のように取り扱うことが出来る機能です。大きく分けて、ストライピングとミラーリングがあります。ストライピングは RAID レベル 0 とも呼ばれ、2台のハードディスクに分散してデータを書きます。1台に100のデータを書くよりも、2台に同時に50づつ書いた方が速度が速くなるというものです。もうひとつのミラーリング RAIDレベル1は、2台のハードディスクに同じデータを書きます。1台に100のデータを書くよりも、2台に同時に100書いてしまうと”予備”が出来て安全だ、という話です。冗長性とも言います。
RAID-0 は速度。RAID-1 は冗長性(安全性)ということになります。
ストライピングは「ストライプ」+ ing = しましま模様:データばらばらでディスクに書きます。
ミラーリングは「鏡」= 2つのディスクはいつも同じ内容。
ということです。
それまで、ほとんどのディスクアレイは、RAID-0 または 1 または 0 と 1 を同時に使うものでしたが前述の「 RAID 内蔵 LANディスク 」が出回った頃は、 RAIDレベル 5 というものが台頭してきました。0 でも 1 でもない 5 です。
RAIDレベル5 は基本的にはストライピングです。3つ(または4つ)のハードディスク構成で、バラバラにデータを書き込みます。で、ついでに、パリティと呼ばれるデータを書きます。このパリティがあると、あとでデータが復元できるという仕組みです。この仕組みのメリットは何かというと、RAID-0 だと危険だし RAID-1 だと、同容量に対して2倍のコストがかかるところを RAID-5 だと、3台で RAID-0 と 1 の美味しいところを両方使える。。。。。はず。 ということだったりします。
パリティという復元機構があるので「ハードディスクが1台故障しても安全!」と、あたかもバックアップが取られているかのような宣伝もなされ、5400rpmのHDDも高速動作し安く済むことも手伝ってか、ともかく「 RAID 内蔵 LANディスク 」は、ほとんどが RAID-5 でした。
たしかに、HDDが1台壊れて交換したら治った(復元された)ことを経験することもあることでしょう。
しかし、そこに罠がります。
1つの罠は「HDDひとつ」で、自動的にホットスワップするような機構だと、HDDが1つつぶれたことに気がつかない。あるいは、はっきりと「つぶれました」とシステムが停止するような機構でないと、「調子が悪かったので電源を再起動したら治った」と、”一時的な再構成”を誤解している場合もあり、気がついたら2個目が壊れて、全データ消失してしまうことに。
2つめの罠は「パリティであってバックアップではないこと」で、ハードディスクが壊れてしまった時に、交換したらバックアップから戻してくれるわけではないこと。あくまでも残ったデータからの再構成であり、復元に失敗することもあるし、最悪の場合にはディスクアレイそのものが壊れてしまうこともある。この点は非常に誤解が多いように思います。正しく動作していれば100%のデータ安全を保証するが、壊れたときは危ないのです。万が一のことを考えるのなら、当然、バックアップは必須。しかし「パリティがありHDDが(1台)故障しても大丈夫」という謳い文句からなのかバックアップをとっていないことが非常に多いように感じます。
3つめの罠は「ストライピングである」こと。RAID-0でも同じことですが、データが複数のHDDにバラバラに書き込まれているということは、再構築には”そのデータを書き込んだコントローラー”が必須。他のPCに接続しても読み出しは不可能で、ちまたでよく見かける S-ATA~USB変換ケーブルなどでつないでも、読むこともできません。中身は全く見えず「フォーマットしますか?」と聞かれるだけです。HDD が壊れていなくても、コントローラーが壊れたらどうなるのか。当然、全データ消失は免れないわけです。
これが原因なのかどうかはわかりませんが、(某B社を除いて)ほとんどの「 RAID内蔵 LANディスク」が姿を消しました。そして、”設計不良”のようなこの構造に対応するためなのか 4台構成の RAID-5 (すなわち1台が壊れたら自動的に、予備の1台をつかって再構成してくれる)ものや RAID-6 が登場しました。ただ、いずれにしてもストライピングなので、第一の罠に対処しているだけという感は否めず、第2・第3の罠には対処不能です。
マニュアルを熟読する方は、ひょっとして気づいていらっしゃるかも知れませんが、おすすめは「 RAID-1(ミラーリング)」なのは間違いありません。
かなりの冗長性を持つことになるので仮に 500GBx2 = 1TB(1000GB)のディスクを用意しても半分 500GB になるし、速度も速くなるどころかむしろ遅くなります。
しかし3つの罠になぞらえるならこうなります。
1つの罠では「HDD1個がつぶれても大丈夫」です。なにしろ、もう1個全く同じものがあるのだから。そして1つ潰れると多くのシステムは何らかのアラートを出してくれます。(この点、なぜ RAID 5 では目立ったアラートを出さない機構が存在するのかが不思議でならなりませんが)すぐ気づきます。ホットスワップなら、同型機またはそれ上位の HDD を交換すればOK。また RAID-1 では、500GB の HDD x2 を使っていたとしても、1台づつ 1TB に変更することで 1TBの RAID-1 になり、このあたりの柔軟性はストライピングでは不可能です。
2つめの罠では、なにしろ「ミラーリング」なので「完全なバックアップ」です。壊れたときの再構成も、再構成というよりは、「まるごとコピー」。復元不能という問題はありません。
3つめの罠では、特殊なフォーマットでもない限り、コントローラーが壊れても早い段階で別のPCにつなげれば、ファイル、データそのまま読めます。なにしろ「コピー」だから。
一部の情報では EXT3 だと読めないとか、いろいろ言われていますが、Linux で読めるし、Windows にも EXT3 をそのまま読み込むユーティリティが存在するので、なんの問題もありません。(ただし、今はどうだか知りません 某B社製の製品の 一部の EXT3 は、なぜか読めない時期がありました。なぜだかわかりません。オリジナリティあふれる特殊なコントローラーなのかも知れないけれど、危ないことこの上なく、実際、ある会社製はデータが復元できない事故を起こしています)
ふつうの RAID-5 FAT32 か NTFS か EXT3 なら 最悪の場合でも、データの大部分は救出できるのでした。
かの あり得ないほど低価格の RAID-5機が出回り、そろそろ5年以上。機械としての消耗の時期でもあります。まだ RAID-5 構成のみで稼働させているのであれば、はやめにバックアップを用意するか、あるいは、この機に RAID-1 構成の Windows Server か Linux Server に切り替えてはいかがでしょうか。
消えてよいデータなど滅多にないでしょうが、規模の大小関係なく、例えば仕事のデータが全て失われたら・・・・
とりかえしが付かないほどの痛い目を見ないうちに対処。
RAID-0 ではなく 5 を選んでいるのは、その対処の1つだと考えたからに違いないのだから。実際には対処になっていないことを知っていただければ。
RAID-5 は危ない。危険!危険!
ここしばらく、やれサーバーが壊れた、やれNASが飛んだと当社に相談・持ち込まれるもののほとんどが RAID-5 で、な、な、なんと「 RAID だからバックアップとれてるはず 」と多くの人が言うので老婆心ながら、勘違いしている人へ伝えたくなったのでした。早急になんとかしないと危ない、と。